どこか懐かさを感じる場所で、ゆっくり一人に浸りたいときに:茶亭羽當(さてい・はとう)
初めてこの店に行ってから10年近く経ちます。ひょっとしたら顔くらいは覚えられているかもしれませんが、お店の方とはほとんど会話を交わしたことがありません。ただお店に行き、目が合えば少し頭を下げて挨拶をする。カウンターの席に通され、オーダーをしてコーヒーを淹れてもらう様子をじっと見つめながら、ゆっくりとそれを味わい、店を後にする。誰か知っている人がいる場所で、一人になれる。そのくらいの距離感が心地良いのです。
茶亭羽當(さてい・はとう)は、渋谷・宮益坂の1つ裏に入った通りで1989年から続く老舗の喫茶店。渋谷の喧騒から少し離れたその場所は、扉を開けるとまるでタイムスリップしたかのように、どこか懐かしくおだやか時が流れる空間へと替わります。
店内は、松材を使った一枚板のカウンターとテーブル席。目の前で、コーヒーが入る様子をじっくりみたい方は、カウンター席がオススメ。
カウンター奥の飾り棚には色とりどりのコーヒーカップが並び、その数約300客。淹れるコーヒーやお客さんの雰囲気に合わせ、毎回カップを選んでいるそうです。
中央にある大テーブルには、見事な四季折々の草花が生けられ、木のぬくもり溢れる店内に華やかさを添えています。
コーヒーは羽當オリジナルのブレンドと、ブラジル、コロンビア、マンデリンなどのストレートコーヒー、デミタスカップでいただくオールドビーンズコーヒー、他にもカフェオレやカプチーノ、紅茶、ジュース類があります。ブレンドとストレートコーヒーはペーパードリップで、オールドビーンズは15分ほどかけてネルドリップでゆっくりと抽出します。私のお気に入りは、メニューには書かれていないのですが(カウンターに貼られているので期間限定なのかもしれません)厳密に湿度管理された空間でゆっくりとエイジングさせた豆を使う「炭火焼き ヴィンテージブラジル」、ネルドリップで淹れる「楡(ニレ)」、そして夏場は断然オ・レ・グラッセです。
オ・レ・グラッセ。アイスコーヒーとシロップを入れたミルクが作る二層のコントラストが美しいです。
コーヒーの他にも、シフォンケーキやチーズケーキ、サンドイッチなどのフードメニューも充実。どれも丁寧に作られていてとても美味しいです。写真はブルーベリージャムを添えたレアチーズケーキ。
平日でも時間帯によっては満席の場合もあるので、確実に入りたいという方は予約をオススメします。予約は2名から(ちなみに、1名であれば満席でも少し待てば大体座れます)。
ここ数年「サードウェーブ」という言葉が流行り、日本にもコーヒーを出す店が随分と増えました。美味しいお店が増える一方で、流行や雰囲気ばかりが先行する所も。そんな中、羽當のようにあえて変わらず、その店ならではの味とスタイルを提供し、上質な時間を過ごせる場所はとても貴重だと思います。10年後、今ある店はどれだけ残っているのか分からないけど、私はあのカウンターに座り静かにコーヒーを淹れる様子を見つめていたいなぁと思っています。
SHOP INFORMATION
茶亭羽當(さてい・はとう)
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-15-19 / OPEN:11:00-23:00(無休)
TEL:03-3400-9088